薔薇十字館

君の彼氏でいるならば。・・・お詫び・・・


御機嫌よう、僕笠原健一郎。
此處に掲載されていた「君の彼氏でいるならば」は、余りの乱文さ加減に
自分自身が耐えられなくなり、降ろさせて貰った。
大幅に加筆・訂正してもう一度送り直す予定なので許していただきたい。
お詫びの誌にショート・ショート・ジョークを。大いにうなずいておくれよ。


別れ話


「お仕舞いね、私達。」
そういいながら婦は煙草に火を付けた。此處は場末のバー。夕闇と時計の音だけが支配する場所。
「・・・一寸待っておくれよ、響子。」
男は手に持ったバーボンを飲んで、そう答えた。だが、婦は責め立てる。
「こんな處で泣き言云わないで。」
「でも、あんまりじゃあ無いか。突然そんなことを云わないでおくれよ。」
「良くそんなこと云えるわね、あなた、それでも私と付き合ってたつもり?」
男の額から汗が流れる。対して婦の方は平然そのものだ。
「理由があるのか?突然言い出したこれに。」
「にッちもさっちもいかなくなったのよ!あなたの所為だからね。責任取って。」
とうとう男は怒りだした。よほど答えに詰まったのだろう。
「てめえ!良く平気でそんなこと云えるな。」
「なれ合いなんてしたくないの。よしてよ、もう。」
沈黙が流れる。マスターのシェーカーを振る音と衣擦れの音、そして小さな水晶仕掛けの
時計の厭に大きな音だけが聞こえる。
30秒、40秒、50秒・・・。


「・・・また私の勝ちね。此處の代金、あなた持ちよ。」
婦はにっこりと男に微笑んだ。
「お客さん、しりとりなんて向いていないんですよ。「う」だったら「嘘だろう?」とか
「受けねらいのつもり?」とかあるじゃあないですか。」
マスターも呆れた顔をして男を見る。ステアグラスにマティーニのレシピを詰め込みながら。
「私と別れ話しりとりをするには10年早かったようね、ぼ・う・や。」
男は未だに考えている。「う」についてではなく、散散飲まれたこのバーの代金を
カードで何回払いにするか、といったようなことだと思うが・・・。