薔薇十字館

標的


シャンベルタン

「もう、赦して・・・。」
彼女は苦しげにそう、呟いた。女は肘から先を戒められ、埃にまみれた
リノリウムの床に轉がされていた。
だが僕は薄笑いを浮かべ右手で彼女の顎を引き上げながら、
「厭だね。」と嘯いた。
部屋は狭く、汗と血液の匂いが混ざり合い据えた匂いが立ちこめている。
「僕は今から仕事だから、温和しく此處で待っているんだよ?」
にこりと微笑む僕は彼女の眸に如何、映っているのだろうか。
そもそも彼女と知り合ったのは街で聲をかけてからだった。
その時の彼女は脱色したワンレングスのセミロングに、薄いピンク色のキャミソールという
いかにも男好きしそうな格好をしていた。
餌をちらつかせれば簡単に吊り上げられる、僕の本能はそう、直感した。


事実、僕の車に軽く乗ってきた。
彼女は軽い氣持ちで付いてきたのだろう。
それが運命の分かれ道だったとは予想だにしなかったろうに。


「可哀想に。逃げようとしたんだね。手首がすり切れているじゃあないか。」
僕は手の戒めを解くと、血の滲んだ手首に口付ける。
鉄の錆びた味が口の中に広がった。熟成の効いたワインに似ている。
「・・・何時までこうしているつもりなの?貴方なんか警察に・・・」
「・・・五月蠅い朱唇だ。」
もがく彼女を無視して僕は彼女の朱唇を割った。
僕は何をしたい訳じゃあない。只、君を戒めていたいんだよ。
「そう、君の爲にワインを買ってきたんだよ。飲んでくれるかい?」
彼女の手に包帯を巻くと、もう一度ベッドのポールに縛り付け、
僕はワインを開けた。
「シャンベルタン、ブルゴーニュのワインだよ。今の君に丁度良いワインだ。」
グラスに少量のワインを注いで口を付ける。
「君の流した血液のようだね。」
口の中で広がる野獣の感触が僕の心を踊らせる。
君にも飲ませてあげよう、そういうと僕はワインを口に含み、
彼女の血の滲んだ様な紅い朱唇を割った。
彼女は苦しそうに身もだえるが構わず流し込む。
何度も、何度も、彼女ののどが鳴る度に僕はシャンベルタンを流し込んだ。
恐怖に震える表情を愉しみながら。
「美味しいだろう?また買ってきてあげるよ。君の爲にね。」
僕はにっこりと微笑むと、空になったボトルを蹴って彼女に覆い被さった。


何時までも貴方を此處に縛り付けてあげよう。
調教してあげるからね。

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